素顔が見られる、女の子投稿型フォトダイアリー。

彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送り、扉を閉めてから少しだけ一息つけば、先ほどの女性との会話を振り返る。
そして、タガが外れたその瞬間に男は声を荒げる。
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「おわぁぁぁぁっ。まーた、長ったらしい俺の話ばかりしてしまったぁっ!どうしよう、圧が強かったりしなかったかなぁっ?」
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「どうしようっ!?怖がらせてしまってなかっただろうか!?」呻き声を上げながら、もだもだと彼女とのやり取りを思い返しては自身が放った言葉の不備を自分で見つけて1人反省会を長々としてしまう。
その時、扉の方からコンコンとノックが鳴らされ頭を抱えていた姿勢を正し入室の許可を出す。
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「若、失礼します。」
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「………蓮治、その"呼び名"辞めておくれよ。」
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部屋に入ってきたのは俺の側近兼この店のチーフとして一目置いている優秀な男、蓮治が何かを抱えて近づいて来た。
それの意図を理解した瞬間、俺は口許を引き攣る。
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「…ねぇ…敢えて質問するけど何故、その薔薇の花束を俺の部屋に持って来ちゃったの…。」
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「見て頂ければ話が早いと思いまして。」
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「おっわぁぁ…、鼻がひん曲がりそうだ。因みにその本数はどれくらい?」
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「50本です。」と淡々と簡潔に答えてくれるこの優秀な部下の顔を見つめる。
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(50…、複数言葉があるが"あの男"の事だ。『永遠』の意味が強いな。)
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数の多い薔薇の花束を抱えた部下が気づいているかは分からないけれど、顔の整った彼の表情に彩る"負の感情"が垣間見え、長年の付き合いのある俺はその雰囲気を察した。
聞きたくはないが、聞かなければ確実に後悔先に立たずして物事を円滑に回す事も上手くは出来まい。
意を決して話を振る。
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「ふぅ…、"要件"は?」
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「"遊戯"の終了後にお時間を頂戴したいそうです。」
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時間を頂戴したい。
この言葉は蓮治の丁寧さで隠されているが、逃げ出す事すら許されないほぼ"強制"が込められている。
(なーにが、お時間を頂戴したいだ。問題が次から次へと舞い込んできやがって。)
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「先方にはオーナーは予定が立て込んでいる事をお伝えをしたのですが…、力不足で申し訳が立ちません。」
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日頃から真面目に仕事を取り組んでくれている男に心底申し訳なさそうな顔で言われて仕舞えば、これ以上責めようがない。
深い溜息を吐いてから、覚悟を決める。
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「気にするな。あの人は特殊だから、俺に相談を持ち掛けてくれただけでもありがたいよ。俺の予定に組み込んで、元々合ったその他の対応に関しては任せても平気?」
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「かしこまりました。この後の業務は俺たちにお任せください、【薊(アザミ)】さん。」
その言葉を皮切りに身嗜みの確認をすれば、緩んだネクタイを硬く結び直す。
タイムリミットまでにはあと2時間半。
この後に起こるであろうトラブルなどの流れの予測を立てながら対話(戦い)に頭を悩ませるのだった。
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「それが"終わったら"…また、来年の今日までに会いに来てよ。それか、違う店で俺たちと『花魁の称号』を取り合うのも悪くない。」
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「この街がより活気が溢れる事は、とてもいい事だ。お店の名がそれぞれ上がることによって足を運ぶ人が少しずつ増えると思う。」
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遠くを見つめる様な眼差しにどこか、移ろい消える感覚に内なる"儚さ"が見え隠れした。
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「そして女の子達はやり甲斐を感じられて、『次の日も頑張ろう』という女の子が1人、2人と増えてきて"希望を抱けば"店の魅力にも繋がる。」
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「もっと増えて欲しいんだよ。働く理由に【お金だけじゃない】って、夢を抱かせて欲しい。俺の"野望の為"にも。」
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野望…。初めてこの人から自身の本当の声を聞けた気がした。
その続きが聞きたくて徐(おもむ)ろに「それは、何ですか…?」と辿々(たどだと)しく問いかける。
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「…………。"コレ"は話せないかな…。店の人間じゃない人にはまだ、ね…。」
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見えない壁に阻まれた感覚に陥りそうになったけれども、彼の申し訳なさそうな搾り出す様な話し方にどこか憎めないと思えてしまった。
男はチラリと腕時計に視線を動かして、目についた時間に突如目を見開いた。
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「…おっわ!もう、こんな時間かっ。"蓮治(れんじ)"に怒られちゃうっ。長い時間、君を縛ってごめんね。」
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「君の素敵な部分を見つけられて、俺はとても有意義な時間を過ごせたよ。」
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「こちらこそ、ありがとうございました…。とても考えさせられるお話を聞けて良かったです。」
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「ほんとー?そう言葉を残してくれるだけで俺も色々と心が軽くなるよ」少し照れくさそうな顔で言葉を交わす。
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「さて、扉の向こうで控えている部下に君の案内をしてもらわないとね。」
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「竹谷ー。案内よろしくねー。」と扉の先にいるであろう人に声を掛ける。
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「これは本当に俺の気持ちなんだけど、また来年…君が此処へ足を運んでくれる日を、期待を胸に楽しみにしているよ。」
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「そして…これからは、君自身を"誇って欲しい"。」
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「君に"挑戦者"と言葉を贈ったけど。その本質を言葉にすれば、それは【一歩、踏み出す勇気】への意図に繋がるんだ。」
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「"俺の目を奪う"程に…その力は、君自身が美しくある為の【魅力】の一つなんだよ。」
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にっ。と効果音が付きそうな、歯を見せながらのその笑顔に私は心が奪われた。
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「ついつい長く話し過ぎたね。君みたいな"煌めく何かを秘めた"素直な子はなかなか見当たらないからさ。」
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「お節介に変わりはないけれど…色々と成長の過程で訪れる"壁"を乗り越えるための方法を、長々と説明してしまったよ。」
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男は申し訳なさそうに目を伏せめがちになりながらも語られる言葉には、芯が通っていて何故だか心に響いてしまう。
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「ある程度の時間を使って君と会話をし、観察しないと分からないもんだよねぇ。」
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「俺も君の輝くものを見て見ぬ振りしなくて"正解だった"よ。くっ、ふ…、はははは!」
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突然、吹き出したと思えばタガが切れたように笑い始めた。
その行為に私の頭の上には疑問符が浮かび上がる。
(なんか、最初に感じた時と変わらずどこか…この人は無邪気さを感じるなぁ。)
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「嗚呼、ごめんごめん。自分より若い子の"成長への可能性"に対し想像して、それに楽しみを抱くと心がわくわくして笑いが溢れるんだよね。」
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「実を言うと、俺がさっき言葉にした"頭のいい子"。覚えているかい?そういった子達しか俺の店にいないんだよね。それが出来ない人はまず【接客に向いてない】からさ。」
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接客の向き不向きは"何に対して"推し測るのかまだ分からないけれど、少しずつ誰かと話をしてその根本的なものの大切さを学べられるだろうか。
そんな思いを抱いている事も梅雨知らず、男はそのまま言葉を続ける。
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「けど、君みたいな【挑戦者】を迎え入れるのもこの店に変化がありそうで、それはそれで良いなぁ?」
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「ポケモンの物語で例えると最初のジムリーダーの気分だよ。」
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「んー、それでも店の連中が【反対】する気がするからなぁ…そうだ!」
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ちょくちょく感じ取ってはいたけれど、この人の中身は"子供"と"大人"を行き来しているその器用さが魅力なんだろうな。
説教じゃなくて、相手にも想像させたり"自力で"考えてもらう為の説法に近いのかもしれない。
だから聞きやすい。だから苦じゃ無い。
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「"1年後"、今日と同じ日に【門を叩いてくれ】。君が今日という、この日以上に"成長した姿"を俺に見せてくれないか?」
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「俺は君という人間のお陰で、新たな"可能性を広げられる"気がした。」
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そして、こんな私にでさえも優しくチャンスを掴ませて貰える様な言葉掛け。
私の力の根本が何か分かれば、納得のいく言葉を私に投げ掛けてくれるだろうか。
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「けれど、君の"置き土産"が多過ぎるから…【店が総出で守る】のも一苦労しそうだからね。自分の尻を拭くのは自分でケリを付けて欲しいかな。」
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何もかも無事に清算した暁には、自信を持ってこの身をこの人の下に置き。
いつか、迷いだらけの私に光を差してくれる…そんな気がする。
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